扉の開けて、やっぱり閉めて。
新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』を観てきたので、忘れないうちに感想を書いとこうと思う。
もちろんネタバレする。
話題になっていたから、まぁ、観ておくか、という気持ちで観に行った。
話題になるだけあるなという面白さだったし、思っていたよりも話が複雑で興味深かった。叙述トリックのような仕掛けに気が付いた時は、ゾクっとした。
何より映像が美しくて、緻密でリアリティがあるのに幻想的な風景がとても良かった。
ただ、映像と音楽がリンクし過ぎて、RADのMVかな、と思うような場面が多かった。
『天気の子』も観たけれど、ボーイミーツガールな話は、さすがに共感しづらくて、大人目線で観ていると、辛い気持ちになる場面が多すぎた。
話も、理解しづらいところが多くて、やっぱり映像美を観るだけになっていた気がする。
そして、今回の『すずめの戸締り』は、観に行くかどうかも決めていなかった。
たまたま、公開初日に予定が空いて、ちょうどいい時間に上映していたので、観に行くことにした。
何度かテレビで紹介されていたのを観ていたし、予告CMも目に入っていたので、まったく前情報が無いわけではなかったけれど、正直、思っていたようなストーリーじゃなくて、ちょっとびっくりした。
あんなに移動すると思わなかったし、終着地が岩手だと思ってなかった。
震災が、ストーリーに関わっていると思っていなくて、映画館のポスターの注意喚起で、多少、それに近いシーンがあるのかなと予想はしていたけれど、それ、ど真ん中の話だと思っていなかった。
ストーリーとしては、今まで観た3作品の中で、一番、分かりやすかったし、受け止めやすかった。自分は、いっそ、ちゃんとファンタジーの方が受け入れやすいみたい。
猫が喋ったり、ヒーローがイスに変えられたりする方が分かりやすいってのも、どうかと思うけど。設定だと思うと、深読みしなくて済むってことかもしれない。
ストーリーに一貫性があって、目的がはっきりしてるのも分かりやすかった。
災害を起こすものが出てくる扉を閉める、猫を探す、イスになったヒーローを元に戻す、要石になってしまった、ヒーローを常世から取り戻す。
目的がどんどん変わっても、進んでる先が変わらないから、受け入れられた。
荒唐無稽なところもあんまりなくて、リアリティはちゃんとリアリティで、辛い気持ちにならなくて良かった。
ボーイミーツガールものとか、青春ものって、大人が不在になりがちで、なんだか必要以上に子供だけになってしまいがちなんだけれど、今回は、ちゃんと要所要所で大人が関わっているところに安心感があった。
ファンタジーを描く時に、リアリティでちゃんと足場を固めてくれるから、ファンタジーを受け入れやすくなるんだと、昔、国語の授業で習ったことを思い出した。
映像美は、これまで以上に美しさが増していて、災いを起こすミミズの表現とか、常世の空の美しさとか、実際の日本の風景とか、相変わらず緻密だけれど、光の当て方とか、視線の持って行き方が、より巧みでアニメーションの技術の高さを見せてもらった。
そして、その映像をみせる演出が最高で、特にオープニングのタイトルが出てくるところで、鳥肌が立った。
今回もRADが主題歌を歌っているけれど、劇中ではそれほど音楽がメインになっているところがなくて、効果として良い使われ方をされていたと思う。
後半のロードムービー的な展開の時に、懐メロを聞いているのも、なんだか良かった。
若い人には新しく、大人世代には懐かしく聞こえる音楽が、時間を表しているようだった。
震災の被害をハッキリと描かれると、正直、観るのが辛くて、被災者ではない自分でも、まだ生々しく感じられて、アニメ映画の題材にされること自体が、受け入れ難いなと思ってしまった。
ただ、主人公が受けた理不尽な喪失は、主人公の死生観や、生き方に直結するものだったから、避けられない表現だったということは、分かる。
あの時、幼かった子供たちが、もう、立派な若者になっているんだなと時の流れを感じた。
そういえば、所々の表現方法に、ジブリっぽさを感じたけれど、オマージュというほどではないにしろ、実際に描いてる人達が観てきたアニメ映画の中に、必ず入って来るだろうから、流れを汲むような感じになるんだろうなと思った。
という感じで、今までみた新海誠監督作品で、一番良いなと思える作品でした。