私の事しか語れない。

日々の彼是。脳内垂れ流し。

空飛ぶウミガメの中で。

COVID-19が広まって良かったことなんて何もないと思うけれど、新しい生活様式とやらを強要されてから、変わらざるを得なかったことは、沢山あると思う。

企業努力という名の苦肉の策を対価を払って甘受することで、企業を助けているような気分にはなれるけれど、以前のような対価の支払い方をした方がいいに決まっている。

 

ANAエアバス社から買った機体は2階建てで、ハワイ便専用機として、外装をウミガメに模したものにし、名前もハワイ語のウミガメを表すHONU(ホヌ)とした。

青いウミガメの1号機は、ラニ(空)、緑の2号機はカイ(海)、そしてオレンジ色の3号機はレイ(花)とそれぞれ名づけられ、成田、ホノルル間をたくさんのお客様を乗せて幾度となく行き来する、予定だった。

詳しくは知らないけれど、たしか、初号機は何度かハワイ便として運航し始めていたと思う。

2号機も日本にいるけれど、3号機はANAに受け渡しすらできていないらしい。

そして、よく知らないけれど、飛行機というのは、長い期間格納庫などに置いておくこともできないらしい。ある程度動かさないと、余計な点検が増えて、むしろコストがかかるらしい。

燃料費と点検コストを天秤にかけた結果、テスト運航という名目で飛行機を飛ばす機会はあるらしい。

どうせ、飛ばすなら、お客を乗せてしまえ、という発想に、この度乗ってきました。

そもそも、新しい機体の就航を夫は大いに喜び、初号機が日本に来た時には、わざわざ成田空港まで観に行った。遠くに見える青いウミガメを見られて、それなりに満足もしていた。

 
 
 
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しかし、実際に乗ろうと思うと、現実的ではなかった。ハワイに行かなければいけないし、しかも、成田から乗らなければいけない。ハワイに行くような時間もお金もない。

多分、乗る機会なんて、来ないだろうと思っていた。

けれど、このご時世で、ハワイに行けないウミガメさんは、国内を遊覧飛行するという、本来ならあり得ない飛び方をするという。さらに、その出発地点に、地元の空港が使われるというのだ。

たまたまネットでその企画を知った私は、すぐさま夫に伝えた。

企画の存在は知っていても、地元開催までは知らなかったようで、大いに喜び、またとない機会なのでぜひ、参加したいと言われた。

ここで問題となるのは、参加は抽選で決まるということ。さらに、座席のエリアが細かく分かれ、それぞれ金額が異なるが、2日間の開催で、応募できるのはそれぞれ一人1席分のみ。ということ。どの席を申し込むか、とても悩み、結局、プレミアムエコノミークラスの窓際と、エコノミークラスの通路側という、当選確率が高そうな席と、比較的低そうな席をそれぞれ申し込んだ。

結果、エコノミークラスの通路側の席が当選した。作戦勝ちというやつだ。

もちろん、できることなら窓際が良かったけれど、夫に言わせれば、乗れる機会を得られただけで、私たちにとっては奇跡のようなものらしいので、文句はない。

当日、車で30分もかからない地元の空港に行くと、ANAのカウンターにスタッフがずらりと並んでいた。チェックイン開始のアナウンスと共に一斉に一礼する姿に、胸が高鳴った。チケットを受け取ったけれど、まだ搭乗には時間があるので、展望デッキに上がり、これから乗る機体を観に行った。成田で見た時よりも、もっとずっと近くで、Flying Honuのラニの顔を見ることができた。二階建てのエアバスの機体は、とても大きく、翼が少し湾曲してるように見えて、本当に海中で泳ぐウミガメのひれのようにも見えた。

Flying Honuの拠点は成田空港なので、そもそもセントレア空港にいること事態があり得ない。展望デッキには、その珍しい光景をカメラに収めようとする航空ファンが朝から展望デッキのフェンスに張り付ていた。カメラを構える人達を見ていると、私たちは今から、この機体に乗るのだという優越感があった。正直、たかだか数時間の遊覧飛行にしては、費用が高すぎると思っていたが、こんなに乗りたいという人がいるのだから、それを払うだけの価値があるものだと思えた。

展望デッキを離れ、空港内のカフェで朝食を食べても、搭乗時間にはまだ早い。けれど、朝早いのと、空港利用者の激減で閉店してしまったお店も多く、やることがない。

搭乗ロビーにあるANAのショップに行きたいという夫の希望もあり、早々に手荷物検査場を通り、搭乗ロビーへ行った。

地方空港のANAショップは、羽田や成田とは比べ物にならない規模だったけれど、ANAファンの夫は、ロゴの入ったハンカチを欲しがった。ついでに、二人分のお土産が少々嵩張るので、ANAオリジナルのショップバックも購入した。

期待とお土産を手に、搭乗口に行くと、まだ人はほとんど集まっていない。

ゲートの側に座り、だんだんと集まってくる人を眺めていた。家族連れから、一人での参加、子供から高齢者まで、幅広い人たちが、Flying Honuに乗ろうと集まってくるのが、なんだか楽しかった。少しおしゃれをしていたり、ANAのグッズを身に着けていたり、それぞれに、この遊覧飛行を楽しみにしていたことが伝わってくる。

今回の搭乗では、ブリッジは使わず、バスで機体の側に行き、ステップを上がって機体に乗り込む。夫曰く、ブリッジを使うと空港に対してANAに使用料が発生するので、コストダウンの為だと思ったが、実際にバスに乗っていくと、Flying Honuを間近で見ることができ、機体の前での写真撮影もしてもらえたので、サービスの意味合いも大きかったのだと思う。

ステップの横に目をやると、機長が手を振っていた。

ワクワクしながら、ステップをあがると、数人のCAさんが出迎えてくれた。入口付近はスペースが大きめに取られ、座席の手前には2階に上がる階段が伸びていた。残念ながら今回座るのは、2階ではなく1階なので、階段の横をすり抜けて、席に座った。

通路側なので、窓の外は人の頭ごしにしか見えない。けれど、座席の背面についている画面から、機体の外についているカメラの画像が見れるので、外の様子をよく見ることが出来た。とくに前方についているカメラの映像はとても綺麗で、機体の前に立っている警備の人の顔もわかるぐらいだった。

安全に関する注意事項が映像で流れるのは、もはや定番だが、この機体では独自に作られたFlying Honuの着ぐるみがハワイの名所で、安全に関する注意を促す映像が流された。なかなかシュールで、とても可愛らしい。この機体に乗らなければ見られない映像だった。実際にハワイに行くために乗る人たちにも気分がでて楽しめると思う。

しばらくすると、飛行機が動き出した。便数が多い時は、すぐに滑走路に入れず、待機することが多いらしいが、今回はすぐに飛び立った。

速度を上げていくのを感じると、ジェットコースターに乗っている気分になるし、機体が浮かび上がるのを感じる時は、少しだけ恐怖を感じる。理屈は分かっているつもりだけれど、こんなに重い機体が浮かび上がるのが、いつも信じられなくて、心配になるのだ。

ベルトサインが消え、画面を前方から機体下のカメラの映像に切り替えると、陸地に機体の影が映っているのが見えた。他の機種では、こんな映像を見ることはできない。

通路側の座席で、窓の外を見なくても、今、飛んでいるんだという実感が持てた。

他にも画面では、飛行ルートを確認できたり、飛行機好きには嬉しい機能が色々あった。移動手段以外の目的で飛行機に乗ったのは初めてなので、新しい機体に乗る楽しさとうものもあるのだと知れた。

さて、遊覧飛行のお楽しみ、機内食サービスの時間がきた。エコノミークラスの食事なので、あまり期待していなかったのだけれど、なんだか豪華なメニューで、ビジネスクラスと大差がないように思えた。食器もプラスチックではなく、カトラリーもしっかりしていた。飲み物には、ハワイ便だけのメニューである、モヒートを選んだ。ラムの風味と爽やかなミントの香りで、美味しかった。料理も、どれも美味しく、前菜からデザートまで、十分楽しむことができた。

満腹になり、食後にコーヒーを頂きながら、時々外を眺めたり、画面の風景を楽しんだりして過ごしていると、ANAのツアーデスク主催のお楽しみ抽選会が始まった。

座席ごとに当選が決まる抽選くじで、当選者には、ANAグッズやカタログギフトなどが当たるという。同じ列の、窓際の席の方に3等が当たり、羨ましく思っていると、なんと夫に1等が当たった。遊覧飛行に当選するだけでも幸運なのに、抽選会で景品までもらえるなんて、夫はなんて運がいいのだろう。

そういえば、数年前にかんぽ生命のキャンペーンで当選して友達と一緒に宝塚歌劇団の公演を観に行ったら、SS席を引き当て、さらに友達に主演女優のサインが当たったことがあった。私の同行者が幸運な人が多いな。

CAさんや周りの方に拍手をいただき、ありがたく、当選した旅行券を頂いた。本当に参加してよかった。

降下を始めるまでの時間、機内を少し歩きまわってみた。エコノミークラスの席は、ギャレーごとに3か所に仕切られていて、それぞれ壁に空や海が描かれている。本当に、ハワイに行くための飛行機なのだ。ドアの窓から外をみると下の方に雲が浮かんでいる。移動のためでなければ、こんな風に無遠慮に機内をうろついたり出来なかったと思う。私たち以外のお客さんも機内を歩いたり、CAさんと記念撮影をしたりしていた。

席に戻り、しばらくすると、ベルトサインが付き、飛行機は高度を下げていく。風が強いのか、時々ガタガタと揺れた。画面を前方カメラに切り替えると、どんどん陸地が近づいてくる。滑走路が見えてくる。風が強いので、滑走路に対して、少し機体を斜めに向けて降りようとしているのがよくわかった。

ドンという衝撃とともに、浮遊感は消え、陸地へと戻ってきた。

あっという間に、遊覧飛行は終わってしまった。

到着すると、画面が勝手に切り替わり、またFlying Honuの着ぐるみ達が登場した。インスタの画面の中で、ハワイの名所を回っている。ここが本当にハワイだったら、ここに行こうとか話しながら、機内を出る順番を待つのだろう。

ドアが開き、またステップを降りて、Flying Honuとお別れした。振り向くと、また機長が手を振ってくれている。とても、名残惜しい。

到着ゲートを出て、日常に戻ると、数時間とはいえ、本当に旅行したような気持になりました。

思い切って応募してよかったです。

早く、本当に旅行できる日が来ることを心待ちにしてます。

その時に、本当にハワイに行けるかどうかは、別問題だけれど。

 
 
 
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 本来なら、ハワイと成田を往復するだけの、Flying Honuに乗れたのは、私たちにとっては、とても幸運だけれど、ANAにとっては、苦肉の策だったことを、忘れてはいけないなと思う。この苦しい時期を、気持ちだけで乗り切ることなど到底できるわけはなく、日々積み重なるコストという名の現実に少しでも立ち向かう企業を助けたようで、ただ、楽しませてもらえただけ。本当にありがたいことです。

COVID-19には、感謝なんかしない。