痛い話。
歯が痛い。
子供の頃はこまめに歯医者に通わされていたからか、虫歯とは無縁でいられた。だから、歯医者も別に嫌いじゃなかった。
大人になって、少しずつ虫歯が増えた。親知らずも2本抜き、とうとう先日、3本目を抜くことになった。
先に抜いた2本はどちらも上の歯で、それほど痛みは感じなかった。
痛い言うか、骨に響く感覚が少々不快なぐらいで、出血も少なく、しばらく抜いた痕に違和感が拭えなかったけれど、忘れた頃に傷口も塞がった。
今回抜いたのは下の歯だ。他の歯に対して真横に生えている上に、ほとんど埋まっているそれを、分解して、抜き取るという。
最初は表面麻酔とやらを塗られた。バナナ風味のそれは、なんとなく口の中をぼんやりとさせた。
次に、注射で麻酔を何回か打たれた。刺さるときの痛みはあるけれど、表面麻酔のお陰で、ちょっと突かれたと感じる程度で済んだ。
段々麻酔が効いてくると、打たれた口の右半分がじんわりと痺れる。
舌もピリピリとしてきた。口の半分が暗闇になった感覚、そのわりに肌はピリピリとして過敏になっている感じだった。
なんどか歯茎を突かれて、感覚が無くなっていることを確かめられ、程無くてして、抜歯作業が始まった。まずは歯を輪切りにするらしい。ギュルギュルという音が響いた。子供の頃に聞いていたら、きっと歯医者嫌いになっていただろう。麻酔のお陰で痛みは無い。振動が骨に響く。
少し鼻づまり気味だったせいか、口を開けてるのが段々辛くなってきた。
鼻でゆっくりと呼吸をするけれど、痰が絡んだ感じがして、喉がつまりそうだった。呼吸が止まりそうになる前に、一段落つく。
まだ完全に分解されていないらしい。一度経過をレントゲンで確認してから、さらに分解作業が続く。なかなか抜きづらいらしく、さらに分解すると説明される。こちらは、口を開けているより外ない。
何回かグリグリと器具を歯に当てている感じがして、気がついたら抜歯は終わっていた。顎が痛かった。
口をすすぐと血が混じる。今度は、傷が塞ぎやすいように縫合するという。
初めて縫われるのが口の中とは。結局、3針縫われた。
バラバラになった歯を見せられ、諸注意を言い渡されて、処置は終了。
が、麻酔はまだまだ抜けない。肌のピリピリ感も、口の中の違和感も消えない。傷口は痛いような気がする。
注意されたとおり、麻酔が抜ける前に、痛み止めを服用しておいた。
化膿止めと炎症を抑える薬も食後に服用する。
食事は麻酔が抜けてから、と言われたけれど、抜ける少し前に食べ始めてしまった。辛いものを食べたので、辛くてピリピリしているのか、麻酔でピリピリしているのかわからなくなった。
食べ終わる頃には、違和感もピリピリ感も消えていた。
痛みを説明するのは、なかなか難しい。しばらくは、痛み止めが効いていたのか、すごく痛むことはなかった。
恐る恐る口をゆすぐと、まだまだ血がまじる。口の中は、表面のそれよりも、傷が塞がりやすいというのをどこかで聞いた気がするので、あまり気にしないように眠りについた。
肌の乾燥が気になったので、フェイスパックをしていたら、そのまま寝てしまった。起きた時に、枕元に落ちていたそれには、血痕が付着していた。どうやら口を開けたまま寝ていたらしい。怖いわ。
朝、起きられなくて、1日3回飲まなければいけない薬を2回しか飲めない日が二日続いた。消毒のためのうがい薬も量を勘違いして薄く使っていた。
歯を抜いて3日目、夜、寝ている間に、ズキズキと痛みを感じて目が覚めた。
頓服の痛み止めはまだあるから、それを飲むか迷ったけれど、眠気が勝った。朝、また似たような痛みを感じる。食後に薬を飲んだら、ズキズキした痛みから、歯茎を強く擦ったようなヒリヒリした痛みに変わった。
口を開けていればいいのか、閉じていればいいのか、無意識に食いしばっているのか、対処法がよくわからないまま、とにかく早く、傷よ閉じろ、と念じる。
歯が痛い。
歯医者に対する印象が少し変わった。麻酔を伴う処置は怖い。できればもう二度とやりたくない。でも、親知らずはまだ一本残っているし、それも今回抜いたのと同じような状況にあるので、同じ理由で抜くことになるかもしれない。怖い。
今日も、傷口の消毒の為に歯医者に行く。週末は抜糸の予定だ。
私は痛みに弱い。毎月のように襲ってくる腹の痛みにも、なかなか勝てなくて、すぐに痛み止めを服用してしまう。最近はロキソニンを常備している。飛躍しているかもしれないけど、妊娠したら無痛分娩を選ぼうと思っている。痛いのは怖い。痛いとすごく消耗する。生理痛の時も、偏頭痛の時も、原因がすぐに思い至らない腹痛や頭痛の時も、とにかく疲れる。痛みに耐えるだけの体力が無いのかもしれない。
痛いのは嫌い。