それはどこかから溢れる。
洗い物を放置していた流しに小さな虫が湧いていて、なんだかとてもやる気が削がれた。
洗い物を片付けて、流しに漂白剤ドバドバ流して、殺菌したから、もう二度と出てこないでくれるかな。
秋だなと思うので、着る機会の減った服をタンスから出した。
タンスに入ったまま、夏の間に着ることのなかった服は処分する。
サマーニットや、夏物のズボンは洗った。
冬物を出すには、タンスをどけて、奥の衣装ケースを出さなければならない。
削がれたやる気は出てきてくれず、出した服は、積み上げられたまま。
出しておいたクリーニングを取りに行った。
金魚柄の浴衣は、今後、着る機会があるかすらわからないけれど、捨てるにはしのびないので、そのまま仕舞いこんだ。
郵便受けに不動産屋からの手紙。更新時期のお知らせ。
この部屋に来て、まだ1年足らずかと思っていたけれど、そろそろ2年になるらしい。
結婚生活、2年。まだ足りないと思うのは、旦那がいない期間が長いからだ。
契約者である旦那の署名が必要だけれど、旦那は今、海の向こう。帰ってくるのも、まだまだ先。対応を確認しなければ。
旦那の出張先にエアメールを送らなければいけないかもしれない。また事務処理か。
昼酒を飲みながら、PCで映画を見る。テンションの上がらない内容。
子供のいない私には考えられない話。
子供は嫌いじゃない。嫌いと言い切れるほど、子どもと接する機会がなかったし、好きと言い切れるほど、盲目でいられない。
産むかどうかという話になると、よくわからない。判断材料が少なすぎる。
ただ、なんとなくで産もうと思うには、予備知識が多すぎる。
頭がぼんやりすると、眠くなる。ベット代わりの厚めのマットレスに敷いた万年床は、昼寝に最適。
詳細な妄想はストーリー性で、AVの絡みだけで抜ける男性とは、構造が違うらしい。
抱き合うには、理由が必要。それは、好きに限らない。
自分を主人公にすると、途端に萎える。いや、乾く。
誰かと重ねあわせて、感覚だけを自分のものにして、何かを追いかける。捕まえる。
深く潜る。
目を覚ますと、辺りは暗くなっていた。
洗濯物を取り込み、置いたままにして、流しに冷蔵庫の野菜を並べる。
洗って、切って、混ぜて、焼いて、洗って、煮て、味見して、焼いた。
また流しには洗い物の山ができる。賽の河原。
食べてる間は、あまり何も考えていない。
食べ足りなくて、酒とつまみを追加。夜の間食は後ろめたい。でも、自制が効かない。我慢できない。後悔はつきもの。
膨らんだ胃をさすりながら、眠りにつく。
会社に行けば、誰かと話すこともあるだろう。
可愛いあの子の顔も見られる。
それだけ理由があれば、起きられる。
言葉にすれば、急に重さを増して、のしかかってくるから、口には出さないようにしているけれど、それは、いつも側にあって、誰かといる時だけ、離れてくれる。
でも、誰かと別れたあと、一人になった時には、余計に濃く感じられる。
それが溢れてくる穴を塞ぎたい。漂白して、殺菌して、二度と見なくて済むようにしたい。
でも、同じ場所から、大事にしなきゃいけないものも、溢れてくるから、完全には塞げない。
少しでも、見なくて済むように、感じなくて済むように、違うところに穴を開けたり、蓋をしたふりをしてみたり。
色々やって、見ないふりが上手にできるようになると、大事なものすら、見ないふりをしてしまう。
穴を塞がず、何度でも口にだして、感じ続ければ、大事なものも見続けられるだろうか。
それを一人でするのかと思うと、考えただけで、どうにかなってしまいそう。
手当たり次第、手を振って、触ったものに、縋り付いてしまいそう。
だったら、あまり上手にならないように、気をつけながら、見ないふり。